マツカのピアス
※マツカがピアスをあけようとする話です。大したことはないと思うのです
途中で血などの描写が少し出てきますので、苦手な方はご注意下さい
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「ぼくも。。。ピアスしてみようかな。。。」
金曜日の夜、ふと家事をしていた手を休めてそんな考えがマツカのふわふわ頭の中をよぎり、
何気なく自分の右の耳たぶをそっとつまんでみたマツカだった。
キースが右耳にピアスをしているのはキース・アニアンを知るものには
周知の事実である。
このSD体制に男がピアスをすること自体、別にさほど珍しいわけではない。
体に穴を開ける、ということにためらいさえなければ男女共に気軽にピアスは
ファッションの一つとしてSD体制社会でも人気はあった。しかし一部の職業、例えば養育父母のように
子供の教育に当たるなど、将来の社会を支えるであろう人材の育成に当たる
職業の者たちには、ピアスという自分の体を「改造」する行為から、その子供への影響を考慮され、
ピアスといえど禁止されていた。ピアスだけでなく、養育父母たちは趣味など、子供たちに
影響を与えるであろう、一切の行為は全てマザーたちの許可・管理の下にのみ、許された。
成人検査をパスして教育ステーションでの教育課程が始まり、成績いかんでマザーに認められた生徒、
または卒業後の成人たちは、ピアスやファッションなど、自由に楽しむことができた。
「風紀を乱さない」というマザーの許容範囲内ではあったが。
マツカはもともとそんなにファッションやおしゃれには敏感な方ではなかった。
無頓着というわけでもないが、人に不快感を与えないことを心がけるぐらいだった。
もしおしゃれに気をくばったら更に見栄えがするであろう、容姿を持っているにも関わらず、
マツカは自分の上司と同様にあまり服装にはこだわらなかった。しかし二人とも、
十人並どころか、百人並ぐらいの一目を引く容貌を持っているのに、それに対して
全く自覚がないところも上司とその部下が、ある意味よく似ている部分でもあった。
そのマツカの上司、キース・アニアンが唯一、身に着けている装飾品がピアスだった。
それは小さめの真珠粒ほどの大きさではあったが、鮮やかな深紅がキースの男性にしては
とても肌理の整った白い肌と漆黒の髪の色との対比で、キースの右耳たぶからのぞく
その赤いピアスは人目を引き、それを身につけているのが、あの「キース・アニアン」ということで、
さらに目立つので一種の彼のトレードマークになりつつあった。
マツカはキースと出会い、一緒に住むようになってからそれが実はキースの親友、
サムの血から作られた、ということを知った。最初は血から作られたピアス、ということで
びっくりはしたが、それ以上にキースの親友への深い想いが、例えキースの心を読めなくても
十分に伝わってくるのだった。それ以来、マツカは何となく自分もピアスをしたら、
どんな感じかなぁ。。とただ漠然と思うことがあった。最初はただ思うだけだった。
しかし、最近、たまに休憩時間にお茶を共にする軍部の女性下士官が
女性ファッション誌を貸してくれるようになり、それを読んだりするようになってから、
今はピアスに好きな人の血を入れて身につける、ということがちょっとした流行になっていることを知った。
ある有名なセクシー女優は、結婚式にて花婿の血を入れたピアスを身につけて式に臨んだ、と
雑誌に書かれていて、そこからさらに「好きな人の血をピアスに」という流行に
拍車がかかったようだ。
(へえ〜、この流行より前にキースは先駆けてやっていたわけだよね、って
サムさんはキースの親友だからまたちょっと主旨は違うかな。。。)
マツカはちょっとそんなことを思いながら、そして自分だったら誰の血を入れようかな、と
考えをめぐらせてみた。
(ぼく、ちょっと情けないけど今恋人がいるわけでもないし、かといって好きな人がいるわけでもないし。。。って、
えっと、ちょっと!どうして今ここでキースの顔が浮かぶわけ!?)
マツカはアニアン家で洗濯物を畳みながら一人で頬を染めて、頭をブンブンふるのであった。
(キースのピアス。。。見る度になんだか僕、ちょっと変な複雑な気持ちになるのは、
きっと血が入っている、ってことに僕が怖がっているからだよね)
家事をすませた後、マツカはネットショッピングをしていた。必要な物をクリックして、さてお会計ページへ、と
思ったときに「誓いのピアス」の商品名を見つけた。
あの今、流行りの血を入れて作るピアスだった。
(誰でも簡単に自分で作れるピアスです、必要な器具一式がセットされているので、
お手元に届いたその日にあなたの手で作れて、ピアス穴も自分でお手軽に
開けられるます。。。か。。。)
気がつくとマツカはそれをクリックしてショッピングカートに入れてしまっていた。
(うん。。。お値段的には高いものじゃないし。。。ちょっと興味あるし買ってみようかな。
なんだったら自分の血でもいれちゃえ)
と、マツカは軽い気持ちで、そのピアスセットを購入手続きをしたのだった。
2日後の日曜日朝、そのピアスセットは他に購入した品物の中に混じってマツカの手元に届いた。
さっそく興味津々のマツカは中を開けてみると、説明書といっしょに数点の器具が入っていた。
まず自分の耳たぶに無痛で穴をあける器具、その後につける化膿止めの薬剤、
中が空洞の小さな丸いピアス本体が2つ、そしてピアスの中に入れる血を採取するための道具、といっても
細い針が先につけられた小さなチューブ(血液凝固防止剤入り)で指の先をちょい、とついて
一滴ほど血を採るだけの物だった。ピアス1つに対して血は一滴あれば十分らしい。
血液を採る、といってもそんなに大袈裟なことをするのではなく、ちょこっと一滴を採って
それを小さな丸い空洞のピアスに封じ込める、それだけの作業のようだ。
(そりゃそうだよね。。。ぼく、なんだか病院とかで採血される時みたいな
でっかい注射でも入っているのかな、と思ったけどそんなわけないよね。。。
でもこのセット、子供の時に買ってもらった「昆虫採集セット」みたい。。。)
もっと仰々しいものが来るのかと思っていたマツカはちょっと拍子抜けのように
感じながらも、こんなにシンプルで簡単なセットだからこそ、今若い人の間で
流行っているんだな〜、と妙に感心していた。
(買っちゃったのはいいけど、え〜っと、どうしようかな。。。)
玄関の方で、ドアが開く音がした。ちょっと所用で出かけてくる、と朝食後に
外出したキースだ。
(あ、キースが帰ってきた。ちょ、これはちょっとキースに見つかると何だこれは、って
いわれちゃうよね。早く片付けなきゃ)
ピアスセットを箱の中に戻し、紙袋の中に入れてキッチンの隅に置いた。
しかし、血液採取用の針付きチューブを箱にしまい忘れたのか、
フロアにそれが転がっていた。
(あ、これだけしまい忘れちゃった。と、とりあえずポケットにしまっておこう)
マツカはさっと拾い上げて、そのチューブをエプロンのポケットに仕舞い込んだ。
と、同時にキースがキッチンの方に姿を表わした。
「マツカ?いつものように玄関に出てこないからいないのかと思ったぞ」
「あ、す、すみません。ちょっと片付け物してて帰ってこられたの気付くのが遅くて。。。」
「ふん、まあ、いい。それよりちょっと腹がすいたので何か作ってくれ」
「は、はい。わかりました。サンドイッチお作りしましょうか?」
「ああ、何でもいい」
マツカは、今ぼくが隠したチューブ、キースに見られていなかったかな、とドキドキしていた。
しかし、キースは別に何も気がついた様子もなく、着替えるためか自室に
すぐに引っ込んでしまった。
小腹がすいた、というキースのために、マツカはキッチンに立ち、パンと中に挟む
野菜、ハム、チーズの用意を始めた。
(興味本位とはいえ、ぼくも変な買い物しちゃったな。。。キースがもし知ったら
どんな顔して何をぼくにいうだろう。。ま、まさか「俺に許可なく、体に穴など開けるな!!」
な、なんていわないよね。。。)
「おい、マツカ。サンドイッチはまだか?」
はっとキースの声で現実に戻ったマツカが振り返るとそこにはバスローブ姿の
楽な格好に着替えたキースの端正な顔が今まで見たことがないほどの近距離で
マツカの左側からマツカの顔をのぞきこんでいた。
「う、うわぁああ!」
マツカにとってはあまりにも予測外の出来事に普段から小動物並みに驚きやすいマツカは、
野菜を洗うために右手に持っていたガラスのボウルをうっかりとフロアに落としてしまった。
マツカがあまりの勢いで驚いてしまったせいか、フロアに叩きつけるように
落としてしまったため、ガシャーン!と派手な音を立てて、それは割れてしまった。
「なんだ、お前は。その驚き方は?俺の顔がそんなに怖いのか?軍人のくせになんで
そんなによく驚くんだ?日頃から緊張感が足りんからだ、もっとしゃきっとしろ!」
「あ、す、すみません。。。」
(い、いえ、あの、誰でもあなたの顔をそんなに間近で急に見たら驚くと思います。。。
怖いだけじゃなくてそのあまりにも整われた顔で。。。ぼくが女性だったら失神ですよ。。)
と言いかけたマツカだったが、やめた。どうやらマツカはぼーっとして料理の手が止まっていたようだ。
「あ、キ、キース。ぼ、ぼくが拾うのでそのままにしておいて下さい。。。」
と、マツカが言い出す前にキースはさっとかがんで割れたガラスの破片を拾いだしていた。
「つっっ!!」
キースが声を上げたのでマツカが驚いて、自分もかがんで拾おうとすると、
キースが左手の中指を右手で押さえていた。
「このボウル、変な割れ方をしたようだな。うっかり指を突いてしまったようだ」
キースの左中指からすこし血がぷっくりと盛り上がっている。
何事にも注意深いキースにしては珍しいことだが、マツカの影もあって床の破片が
見えにくかったのだろう。キースはどうやらガラス破片の尖った先で指を
かなり突いてしまったようだった。
「ああ、申し訳ありません!ぼくの不注意のせいで!」
「かまわん。おれがもう少し注意すればよかったのだ。指は舐めていたら血も止まるだろう。
片付けはお前にまかせる。お前も破片に十分に気をつけろよ。」
「あ、はい。本当に申し訳ありませんでした!」
マツカはなぜかひどく動揺してしまっていた。自分のせいでキースにケガをさせてしまって
申し訳なくも感じてしまったせいでもあるが、いつも完璧でそつがないキースがこんなことで
たとえ小さくてもケガをした、ということにもマツカは驚いてしまったからもしれない。
キースは軽く左中指を舐めたあと、また自室へと戻っていった。
マツカはかがんで、割ってしまったボウルの破片を注意深く拾おうとした。
と、その時、一つの破片の上に、小さいが盛り上がった染みのようなものが見えた。
マツカの心がなぜか、ドクン、と脈を打った。
(こ、これって。。。もしかしてキースの血。。。?)
マツカはその破片を注意深く広い上げてその盛り上がった小さな染みをよく見てみた。
それは、間違いなくポタッと落ちたような染み、赤黒く見えるそれは明らかに血だった。
きっとキースがさっき指を破片で差してしまった時に、落ちてしまったに違いなかった。
マツカはなぜかとっさにエプロンのポケットに手をつっこんで、あの針付きチューブを取り出した。
そして震える手でその盛り上がっている染みに針を入れ、チューブに吸い込んだ。
(ぼ、ぼく、一体何してるんだろう?こ、こんなこと、勝手にしちゃって。。。)
マツカは自分でも自分のやっていることに驚きを隠せず、キースの指から滴った血を
チューブに収めたあとも震えが、体全体の震えが止まらなかった。
「マツカ」
「は、はい!!」
も、もしかして。。今自分がやってしまったこと、キースに見られてしまっただろうか。。。
マツカは自分の心臓の音が自分の耳に聞こえてくるのでそれがキースに聞こえていないか、と
更にどきどきし始めた。
「おい、サンドイッチといっしょにコーヒーもくれ。今日はちょっと濃い目にしてくれ。
ちょっと疲れているようだ」
「す、すぐお持ちします」
マツカは今までキースに対して秘密にするようなことはしたことがなかったが、
初めてキースに対して、ちょっと後ろめたさのような妙な気持ちを感じたのだった。
キースにランチのサンドイッチと濃い目に淹れたコーヒーを出したあと、
まだ少しどきどき感が治まらぬマツカは、自分の部屋に大急ぎで篭もった。
(ぼ、ぼく、やっちゃった。。。いくら偶然からとはいえ、キースの血をとってしまっただなんて。。。
自分でも信じられない。。。)
マツカは手元のチューブを呆然と、放心の体で見つめていた。
薬剤が入っているせいか、その色は鮮やかな深紅色を留めていた。
そう、キースの右耳のピアスとよく似た色を。
(でも偶然とはいえ、こんなタイミングもそうあるものじゃないよね。。。キースの血。。。
右耳って髪の毛でいつも隠れているから。。。開けるんだったら右耳かな。。。
もしぼくがピアスを開けてもキースは気が付かないかな。。。)
台所に置いた紙袋の入れておいた、誓いのピアスセット一式をマツカは自室に持ってきて
机の上に置いた。ピアス本体を取り出し、さっき採ったばかりのキースの血を入れた
針付きチューブの針の先端をピアスの小さな穴、血の注入口に入れようとした。
しかしマツカの手はひどく震えて上手く入らない。
(や、やっぱりぼく、キースに聞きもしないで勝手にこんなことして。。。悪いかな。。。
あ、で、でも、キースはサムさんからどうやって血をもらったのだろう?
サムさんは病気になられてからキースがピアスを作ったみたいだし。。。
もしかしてキースもサムさんに何も聞いていないんじゃないんだろうか。。。)
そう思ったとき、なぜかマツカの気持ちが少し軽くなった。手の震えが少しおさまったので、
ピアス本体に針の先端を入れることができたので、チューブの中身を送り込み、すぐ蓋をした。
ピアスを作ってしまった後、マツカは少し自分でも信じられないような面持ちでぼおっ、となった。
(ああ、やってしまった。。。これが、この小さな丸いものがキースの血でできたピアスなんだ。
世界でたった一つの、キースの血のピアス。。。)
マツカは右手でつまんで、そっと机のランプの光にかざしてみた。
それは以前に博物館で見たとても貴重なものといわれている海の真っ赤な珊瑚、
SD体制では地球の環境保全のため、今は民間人は持つことは許されない、
貴重な深い紅い色をしてとてもきれいに磨かれて光っていたあの深紅色の海の珊瑚に
似ているな、とマツカは思った。
(ここまできちゃったら、ちょっとまだ怖いけどピアスの穴、右耳に開けてみよう。
キースがサムさんの血が入ったピアスをいつも身につけているように、
ぼくもキースの血が入ったピアスを身につけてみたら。。。一体どんな気持ちがするんだろう)
マツカは決して好奇心だけではない何かに突き動かされるように、ピアスの穴を開ける器具を
手にとって右の耳たぶに指示書に従って当ててみるのだった。
鏡に映る自分の顔と器具を見て位置を確認し、マツカは意を決して、器具のボタンを押した。
(う、ちょっと耳元で大きな音がしたからびっくりはしたけど、でも思ったような痛みはないや)
その作業はあっけないぐらいに簡単に終わった。器具をはずして、いつも顔右半分にかかっている
細い銀色の髪をかき上げ、鏡を覗き、自分の右耳たぶを確認してみた。
少しいつもより赤くなっているようだが、血は出ていなくて少しへこんだように見えるものがある。
これがピアスを通す穴なのだろう。指示書に従って、消毒用の薬を塗り、少しおっかなびっくり顔で、
マツカは作ったばかりのキースの血入りピアスを恐る恐るそこへ差し込んでみた。
鏡の中の自分の顔とつけたばかりのピアスを交互にマツカは見てみた。
マツカの男のそれとはとても思えないほどのピンク味を帯びた白い肌と
まるで上等の絹糸のような銀色のマツカの髪には、その深い紅色はとても映えて、
マツカの色白さ、そして潤みを帯びた金色の瞳を更に強調するかのようだった。
しかしマツカ自身はその事には全く気も付かず、見慣れない自分の右耳への
恥ずかしさの方で気持ちがいっぱいだった。
(開ける前は心配でちょっと怖かったけど、ものすごく簡単にできちゃったな。
耳も痛くないし、落ち着くまで毎日消毒してたら大丈夫そうだな。
でも、ピアスしているところ、キースや軍の人に見られたらやっぱり恥ずかしいな。。。)
そう思ったマツカは、自分の銀色の髪を右耳にかぶさるように、ぎゅっぎゅっ、と
押さえつけて見えないようにしてしまった。
(見えないピアス、って何か意味がないような気もするけど、やっぱり慣れなくて
恥ずかしい気持ちの方が勝ってきちゃった。でもせっかくあけたピアスをまたはずすのも。。。)
マツカは顔を赤くしながら、落ち着かない気持ちになって、ピアス器具を箱に戻し、片付けた。
何重にも紙でくるんで、紙袋に入れて、机の引き出しの一番下の段の奥に仕舞ってしまった。
まだ少しマツカの心に感じるキースへの罪悪感をまるで仕舞うかのように
、その引き出しをぴったり閉めて鍵もかけるマツカだった。
続く
駄文置き場に1つだけでは(自分が)寂しいので少しずつ増やしたいと思い
マンガで描けないネタをぼちぼち書いていたものです
キースのピアスを見てマツカも触発されないのかな〜、と思って浮かんだネタです
あと1〜2ページぐらいで終わりますので、お付き合いいただけるとありがたいです
続きは近々アップいたします〜